大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(行ク)3号 決定 1970年6月12日

申立人 高橋清治 外三名

被申立人 東京都知事

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

一、本件申立ての趣旨および理由は、別紙一記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は、別紙二記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

本件申立ては、要するに、被申立人が申立人清治に対し、東京都江東区亀戸町七丁目七〇番地についてした仮りに権利の目的となる宅地の指定処分が当然無効であるから、被申立人が土地区画整理法七七条二項の規定に基づき右申立人に対し同宅地上に建在する申立人ら所有に係る別紙一添付第一目録記載の建物についてした移転の通知および照会も違法であると主張し、前記仮換地指定処分の無効確認の訴え(当庁昭和四五年(行ウ)第二〇号事件)をその本案として、右建物移転通知の効力の停止を求める、というのである。

しかし、土地区画整理法による仮換地指定処分が当然無効である場合には、同処分を前提とする建物移転通知もまた違法となることは首肯しうるとしても、本来仮換地指定処分と建物移転通知とは、別個独立の処分であつて、その成立要件・効果を異にするものであることはいうまでもない。ところで、行訴法二五条所定の執行停止は、同条が、当該裁判所に本案訴訟が係属していて、しかも、本案につき理由がないとみえないことをもつて執行停止の要件としていることからみて、また、もともと執行停止が、行政庁の公権力の行使に当たる行為の効果を停止又は阻止することによつて、行政権の作用に対し甚大な影響を与えるものであるということに思いをいたせば、――建物移転通知の取消し又は無効確認の訴えを本案として同処分の効力の停止を求めるのは格別――前叙のごとく、建物移転通知とは別個独立の処分たる仮換地指定処分の無効確認の訴えを本案として建物移転通知の効力の停止を求めることは、許されないものというべきである。

よつて、本件申立ては、不適法であるので、これを却下することとし、申立費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 渡部吉隆 園部逸夫 渡辺昭)

(別紙一)

申請の趣旨

被申請人より申請人らに対して昭和四四年三月一一日付及び同年六月五日付を以て通知した「仮りに権利の目的となるべき宅地指定」の処分に基づく昭和四四年七月三一日通知した「建築物移転」処分の効力を停止する。

との裁判を求める。

申請の理由

一、罹災建物の借家人であつた亡高橋徳治の相続人であつた申請人四名を含む六名の者は昭和二〇年九月頃申請外小川俊一より亀戸七丁目七〇番地約六十坪を借地して木造平家建建物一棟を所有していたが、申請人高橋清治は昭和三六年鉄筋二階建店舗兼居宅を建築し、昭和三八年五月増築をして鉄筋四階建の別紙第一目録記載の建物を建築した。

二、申請人は東京都市計画事業亀戸七丁目付近土地区画整理事業の施行者である(但し、この事業が始つた時は施行者は東京都知事東竜太郎であつた)。

三、右区画整理事業については、昭和三八年九月施行規程及び事業計画が定められ、昭和四二年一二月頃換地計画が決定された。

四、昭和四三年二月六日被申請人は申請人高橋清治に対し、仮に権利の目的となる宅地指定(仮換地指定)の処分をなした。

申請人高橋清治は右について昭和四三年六月二九日申請人から更に同年九月五日付近の住民である利害関係人四十人と共に被申請人に対し異議申立をなしたところ、昭和四四年三月被申請人は右仮換地指定を取り消した。

五、而して、同時に昭和四四年三月一一日及び同年六月五日付の公告を以て(双方の公告の内容は同一であるが)申請人高橋清治に対し「仮に権利の目的となるべき宅地指定」を以て、別紙図面赤斜線部分より青斜線部分に移転すべき指定をなしその旨通知した。よつて申請人高橋清治は昭和四四年四月一八日及び同年八月一一日被申請人及び建設大臣坪川信之に対し右処分を不服として審査請求書を提出したが、未だこれに対する審査決定はない。

六、ところが、被申請人は昭和四四年七月三一日付の公告による通知を以て申請人ら四名に対し、前記別紙第一目録記載の建物を昭和四四年十一月二五日限り移転すること及び右期限後は施行者に於て移転する旨の通知及び自ら移転する意思の有無についての照介等の「建築物等移転通知及び照介」処分をなした旨通知した。よつて申請人ら四名は昭和四四年十月六日被申請人に対し右処分に対する不服申立書を提出した(この通知書には不服申立についての教示がなかつたので、右の様な手続をしたが、これは審査請求書を処分庁経由で提出したものとみなさるべきである)。然し、未だこの決定はされない。

七、以上の経過であつたところ、被申請人は昭和四五年一月一六日より建物移転除却工事のため、立入禁止の立札をたてた。なお、同日建築物等移転工事を昭和四五年一月八日から始める旨申請人に通知して来た。

八、ところで前記仮換地指定処分には左の如き違法があり、取消さるべきであるが、これに基く「建築物等移転」の処分も右取消さるべき換地指定処分を前提としている以上違法であり取消さるべきである。

(一) 土地区画整理法によれば、施行規定、事業計画換地計画等を決定するには、何れもこの内容を二週間公衆の縦覧に供せねばならないことになつている。然るに本件土地区画整理事業施行者(以下単に施行者と称する)は、これらの縦覧をなさなかつたばかりか、審査請求人(以下単に請求人と称する)が閲覧を求めても施行者の担当者はこれすら拒否したものである。而して縦覧に供されずに決定された施行規程、事業計画、換地計画は無効であり、少くとも取消さるべきものである。

(二) 申請人高橋清治に対し指定された仮換地は従前の宅地に照応せず、著しく不合理且つ不公平であり違法又は不当であつて取消さるべきである。

イ、申請人高橋清治所有の建物は鉄筋コンクリート造りの四階建ビルであり、本件土地区画整理法第九五条第一項第七号、同法施行令第五八条第六項の「構造上移転若しくは除却の著しく困難なもの」に該当し、特別宅地に関する措置として当然現地換地が考慮さるべきものである。即ち現地換地を先ず考慮し、これが不能のときに他地への換地がなさるべきものである。ところが、本件に於ては現地換地を不能又は著しく困難とする事情は存しない。本件区画整理区域内に於て現地換地は四軒あるが(別紙図面KLMNの箇所)その中三軒は木造建物、一軒(別紙図面M)のみが鉄筋コンクリート建である。而して申請人高橋清治の他には鉄筋コンクリート造りのビルを他に移転するよう換地指定された者は存しない。

申請人高橋清治所有の右建物は昭和三八年に増築工事により現状の様になつたが、この工事が不完全でコンクリートの不良箇所がかなりあり、亀裂が百ケ所程存在している。そのため現状では地震時に障害を起すという東大の鑑定がなされて居る状態である。従つてこの建物の移転は建物としての存続を不能ならしめるおそれが大であり、且つ仮りに存続せしめ得る手段が可能となつたとしても、そのためには著しい労力、技術、費用が要することとなるのは明らかであるが、そのようにしてまでこの建物を移転せしめねばならぬ合理的理由は全く存しない。

申請人高橋清治所有建物は別紙図面赤斜線部分であり、指定された仮換地は青斜線部分である。この建物の東方部分は若干計画による新道路にかゝることとなり、苦干削り取ることとなる。このことはやむを得ないと考える。然し仮換地に於ても申請人の使用土地部分は従前の一九八m2(六十坪)から一七六m2に減ずるのであつて仮換地に移るからと云つて減歩を生じないわけではない。同じく従前より換地を若干狭くするというのであるならば、現地換地として、建物を一部削ることとし、仮換地と同程度の土地を現地換地となしても一向に支障はないことであり、又新道路は原告の建物の南側につくが、この道路のふちは申請人建物の南側の壁に一致し、建物に手を加える必要もない。

即ち、現地換地の方法をとれば、面積に於ても換地のばあいと異ならず、建物は東側部分の一部削除ですみ、南側道路面は手を加える必要はなく、最も合理的な方法となる。

ロ、更に換地は従前の土地に照応せず、換地の指定は不公平である。

本件換地の原則は全体的に従前の人が六、七米乃至一〇米近く、そのまま東方へ、又は南側に移る様になつている。即ち別紙図面<イ>の付近の人々十数人は<ロ>の付近の土地に、<ハ>の人々は<ニ>の付近に、<ホ>の人々は<ヘ>の付近に全体的にずらすことになつている。この原則からすれば申請人らは仮りに現地換地が認められないとしても別紙図面<D>の部分に移るべきである。次に付近の人々の職業と換地との関係を考える。

Cの人は孔版業(ガリ版書き)で店舗を開いていた人でもなかつたし、角地でもなかつたが、換地は<C>の角地の一等地になり、マージヤン屋を開いた。Dの人は炭屋で角地ではなかつたが、換地は<D>の一等地でガソリンスタンドを開く予定である。Eの人は従前角地でなかつたが<E>の角地に指定された。Fの人は勤め人で店を持たなかつたが、<F>地に移ることとなつた。Gは豆腐屋で角地ではなかつたが、換地は<G>の一等地である。Pの人は勤め人で従前その居宅は大部分表通りに面せず、道路に面していた部分は三米位しかなかつたが、換地は間口が三倍位の<P>地である。面積も殆ど減じていない。Qの人は勤め人で店舗はなく、角地でもなかつたが、換地では<Q>の角地であつて、貸店舗業を始めた。

ハ、申請人らの従前の場所は請求人の店舗の面している道路とこれに直角にT字形に西方に延びている道路があり、Tの字のlに当る道路の長さは約八十米でその先は西方の一番大きな通りと結ばれていて、西方大通り方面から来る客も多かつた。然るに仮換地は申請人らの場所から前方に延びる道路は家の数にして五軒分の長さしかなく、Tの字状でなく工の字状になつて居り、人の流れは妨げられる。申請人は此の付近で売場面積の最も大きな店舗であり、売上量も多く、場所もよかつたのであるが、従前店舗も開いていなかつた人、或いは従前よくない場所で店をしていた人より不利な営業場所に移転すべき理由はなく、仮換地の指定は著しく不公平である。

ニ、以上の通りであるので、第一に原告は現地換地にならなければ建物の移転が困難である上に、損壊の危険があり、これを特別宅地の適用がなさるべきで現地換地の指定がなさるべきであるにもかかわらず、これを移動せしめ、更にその換地はC、Qの従来店舗を有しなかつた人が角地に移り、或いは原則的に六、七米乃至十米全体的に移動する程度であるのに比し、原告を飛地的に特別に移転せしめ、而もそれが営業上著しく従前より不利な土地であるという点に於て著しく不公平且つ不合理であつて、行政目的上の自由裁量の範囲をこえ違法であり、取消さるべきである。

九、なお、別紙第一目録記載の土地六十坪は前記の事情で高橋徳治の相続人である申請人高橋マス、同清治、同フクヱ、同安田郎、申請外高橋利守、同国徳が訴外小川俊一の共同借地人となつたが、昭和四十年二月右小川は原告高橋清治の前記鉄筋コンクリート造り建物の建築をしたことを以て宅地の用法違反と称し(実際は書面による承諾書をもらつていたのであるが)右六名の者に対し借地契約を解除し、東京地方裁判所に建物収去土地明渡の訴訟を起した。この訴訟は昭和四二年二月二八日和解が成立し、申請人らは右小川より建物敷地である別紙第二目録記載の土地を金五百万円也で買受けることになつたが、右小川は前記土地六十坪を分筆し移転登記をするべき約束に反し、代金の受領を拒否し、移転登記をなさずこの土地の範囲について争が生じ、現在東京地方裁判所民事第十二部に係属中である。従つて実際は原告らの借地権でなく原告等を含む六名の土地共有権の換地が考慮さるべきこととなる。この事実は被告は充分知つているところである。

なお、本件土地区画整理に於ては審議会の委員が選任されたが、その委員は選挙によらず一部の人達の間に勝手にとりきめられたものであつた。而して土地賃貸人である前記小川俊一は此の区域における大地主であり、右委員十人の中六人は右小川と小川の借地人五人で占めていたし、申請人は小川より訴訟中であつた関係で、この委員の構成自体公平が疑われる事情があつたものである。

十、右の通り本件仮換地指定処分並びに建築物等移転処分は違法であり取消さるべきであるので昭和四五年一月二七日申請人は被申請人を被告として行政事件訴訟法第八条に基づき東京地方裁判所に対し右処分の取消請求訴訟を提起した(昭和四五年(行ウ)第二〇号事件、民事第二部)

十一、昭和四五年一月一六日被告は地上建物である別紙第一目録記載の建物の移転工事に着手し始め、立入禁止の立札を原告方の家の前に立て、建物基礎部分に穴を堀り、資材を搬入して来た。然し前記の通り移転すれば建物は崩壊の危険があり、換地指定処分及び移転の命令が判決により取り消されても、再びこのビルを原地に持つてくることは不可能であり、更にビルの移転工事だけで最低七、八ケ月かかる予定とのことであるが、一年近く休業することとなるし、更に原地にビルを戻すことは益々不可能となり合計二年近く休業することとなり、原告らの生活はできなくなるし、回復困難な損害を蒙ることとなる。よつて本申請に及ぶ。

(別紙第一、二目録、図面省略)

(別紙二)

意見書

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

との決定を求める。

却下を求める理由

第一事件の経緯

一 東京都市計画事業亀戸七丁目付近土地区画整理事業は、土地区画整理法(以下「法」という)第三条第四項にもとづいて東京都知事(以下「被申立人」という)が施行する事業である。

法第三条第四項により被申立人が事業を施行する場合、被申立人は右事業について施行規程および事業計画を定めなければならない(法第六六条)。

そこで、被申立人は、事業計画および施行規程を定めるため法第六九条第一項により昭和三八年六月一日より同月一四日までの間施行規程および事業計画を江戸川区平井四丁目千六百一〇番地江戸川区平井出張所内で公衆の従覧に供した。

右施行規程および事業計画は昭和三八年九月五日決定され、本件土地を含む約一〇八、〇〇〇平方メートルの土地について土地区画整理事業は同日より開始された。

二 本件区画整理事業において、主な公共施設として都市計画街路放射一五号線及び環状第四号線が含まれており、右二つの道路が拡幅されることになつているので本件土地を含む付近宅地の換地設計は総体的に東南の方向に移動することになつた。

右換地設計は昭和四一年一二月一四日区画整理審議会の諮問を経たうえで、同年一二月一五日より同年一二月一七日まで三日間にわたり関係権利者に通知のうえ、工区事務所に備置し関係権利者の閲覧に供した。

三 右換地設計発表まえの昭和四〇年三月頃申立人高橋清治は、被申立人に借地権申告書を提出したが、右書面には法第八五条に定められた土地所有者の署名、押印及びそのことを証する書面の提出がなかつたので、被申立人は昭和四一年一二月九日申立人高橋清治に借地権申告書を再提出させることとしたうえで先に提出した申告書を返戻したところ、昭和四二年一月一六日申立人高橋清治は借地権申告書を修正したうえ提出した。

四 昭和四三年二月六日被申立人は、法第八六条の換地計画が未だ決定していないので、換地計画の内容である換地設計を定め、これによつて昭和四二年一二月二二日土地区画整理審議会に諮問のうえ仮換地指定処分をした。

昭和四四年二月一二日、被申立人は換地設計の変更(土地分筆登記に伴うもの)に伴い昭和四三年二月六日付の仮換地指定処分を事情変更を理由として取消し、別に仮換地指定処分をした(位置に変更はない)。ところが、申立人高橋清治は右仮換地指定通知書の受領を拒絶した。そこで被申立人は法第一三三条第一項法施行令第七五条第一項において準用する同令第七二条第一項の規定により仮換地指定通知書の内容を昭和四四年三月一一日付の東京都公報(第三、四九四号)をもつて公告した。

ところが、右公告によれば、公告の日以前に仮換地指定の効力が発生しているという誤りが発見されたので昭和四四年六月五日発行東京都公報第三、五五六号で再度公告した。

五 被申立人は、昭和四四年七月四日付で、申立人らに対し、法第七七条の建築物等移転通知および照会の文書を送付したが、申立人らは受領を拒絶したので法第一三三条第一項及び同法施行令第七五条第一項において準用する同令第七二条第一項の規定により昭和四四年七月三一日東京都公報第三、六〇四号をもつて公告した。

申立人らは、この処分を不服として昭和四四年一〇月六日建設大臣に対し審査請求及び執行停止の申立てをしたが、建設大臣は昭和四五年一月一二日付で執行停止の申立てを却下した。

六 右公告で、被申立人は、申立人らに対し昭和四四年一一月二五日を移転期限として、建物等の移転を命じ移転期限後は施行者において移転する旨通知している。

公告後東部区画整理事務所の職員は再三にわたり建物移転等について申立人らと接衝したが、申立人らは話し合いに応じようとはしなかつた。

そこで、やむを得ず被申立人は、移転工事を自ら行うことにし、昭和四四年一二月二二日付で申立人らに昭和四五年一月八日より移転工事を行う旨の通知、昭和四五年一月一六日立退き等の通知を申立人らにしたうえで昭和四五年一月一六日より移転工事を開始した。

第二本件処分の適法性

申立人らは、被申立人の建築物等の移転処分は前提たる仮換地指定処分が違法であるから、当然違法たるを免れない旨主張するが、以下のとおり申立人らの主張は理由がない。

一 縦覧の点について

被申立人は、法第六九条の規定により昭和三八年六月一日より同月一四日までの間施行規程および事業計画を公衆の縦覧に供しかつ、右期間後は右書類を東部区画整理事務所に備付けており(法第八四条)、申請があればこれを閲覧させているから申立人らの主張のように閲覧を拒否した事実はない。

もつとも、申立人らは換地計画の閲覧を求めているとすれば、換地計画は未だ決定していないのであるから閲覧することは不可能であるといわねばならない。

二 照応の点について

(一) 照応しない理由の一について(特別の宅地について)

申立人らは、申立人高橋清治所有の建物は、鉄筋コンクリート四階建のビルであるから、法第九五条一項七号、同法施行令五八条六項一号の「構造上移転若しくは除却の著しく困難」なものに該当し、したがつて現地換地をすべきであるとする。

そもそも、土地区画整理事業が、土地の区画の性質を変更することを原則とするものであるかぎり従前地と同じところに仮換地が指定されることは通常考えられないのであつて、位置の変更は一般的に予想されるものであるが、仮換地指定は従前の土地の地積、利用状況、環境、水利等を考慮したうえでなすべきものであることはいうまでもない。

(二) ところで、申立人高橋清治の借地していた従前土地(以下「申立人土地」という。)は巾員四メートルの道路に面する一方間口の土地であるが仮換地指定地は巾員六メートルの道路に面する一方間口の土地である。

申立人土地は換地設計によれば巾員六メートルおよび八メートルの道路に囲まれた角地となるが、かりに申立人らの主張のとおり現地換地として仮換地の指定を行なつたとすれば、申立人高橋清治についての仮換地指定部分は他に比較して極めて有利となる。

そればかりでなく申立人主張のとおり現地換地(申立人ら指摘のK・L・M・Nについて現地換地はしてない)とした場合には、たとえ建物の一部を切りとつたとしても、これがためには二〇六平方メートルの地積を要し、かえつて地積が増加して(約七、六六平方メートル増加)平均減歩率二一・〇七%を課している本事業において著るしく不公平となる。なお、申立人の仮換地指定地の減歩率は一二・七%である。

ちなみに申立人土地には従前角地であつたものが仮換地指定をうけている。

従つて本件仮換地については建物の特殊性を考慮することなく法第八九条の原則的な定めによるのが適当である。

(三) 申立人らは、本件建物が構造上移転が困難である旨主張するが、施行令第五八条第一項第六号の構造上移転困難なものとは大規模な建築物で現在の建築技術では移転するのが困難であり、仮りに技術的に移転が可能だとしても相当長期にわたつて工事が行なわれるような場合をいうのであつて、本件建物のような場合現在の建築技術からみて移転は可能であり、その建物の移転(仮換地上に対して)工事に要する日数はせいぜい九〇日程度であるから、申立人のいうような移転困難な建物ということはできない(東京都においてビルの移転工事はすでに何回となく施行している)。

三 また、申立人らは他人に比較して、申立人高橋清治に対する仮換地指定が不公平である旨主張しているが右一(二)において述べたとおり、申立人の減歩率は平均減歩率に比して少であること、申立人土地が換地設計により角地となること及び別添仮換地位置図(疎乙第一一号証)のとおり申立人に対する仮換地指定が不公平とは到底考えられない。

以上のとおり、申立人高橋清治に対し被申立人のした仮換地指定処分は照応の原則に反するものでなく、かつ、手続にも瑕疵はないから適法な処分である。

また、右仮換地指定処分にもとづいてした建物等移転通知および照会にはなんら違法の点はない。

第三本案について理由がない。

第二において述べたとおり、被申立人のした本件仮換地指定処分等は適法なものであることが明らかであり、従つて、申立人らの本件申立ては本案について理由がない。

第四回復困難な損害およびこれを避けるための緊急の必要性がない。

一 申立人は、本件処分の効力を停止しなければ、建物崩壊のおそれがあり、かりに仮換地指定処分が取消されたとしても、再び原地に戻すことは不可能であり、かつ、その間合計二年近く休業することとなつて申立人の生活ができなくなるし、回復困難な損害を蒙ることになる旨主張する。

二 しかしながら、本件建物については現在の建築技術上は移転可能であるし、また、休業期間について法第一〇一条により営業補償は勿論、動産の移転費用、工事期間中の建物の使用料を補償するものであるから、申立人は本件処分の執行停止を求める回復困難な損害はない。

なお、被申立人は申立人らに対し補償するため再三にわたり申立人らに対し交渉に応ずるよう説得しているが、申立人らは言を左右にしてこれに応じないので補償額の算定が遅れているものである。

三 さらに、回復困難な損害の有無は、本案の理由の有無と独立別個に判断されるべきものではなく、両者はともに密接なものとして考慮すべきであり、従つて、本案に理由がないことのがい然性が大きければ損害はないものと判断すべきである(広島高裁岡山支部昭和二六年二月七日、行集二巻二号二四二頁、甲府地判昭和二五年一〇月二五日、行集一巻八号一一八九頁)。

そして、以上のごとく本件処分が適法であることが明らかであるから、結局、申立人らに損害がないと認定されるべきものである。

四 また、仮りに、本件処分により申立人らに損害が生ずる場合があるとしても、回復困難な損害とは金銭賠償不能の場合にかぎられると考えるべきであつて、そうとすれば、本件の場合、仮りに損害が生じたとしても別途その責任を損害賠償として請求することが可能であり(同趣旨、最高大昭和二七年一〇月一五日大判・民集六巻九号八二七頁・例集三巻一〇号二三〇頁、名古屋高昭和二九年一一月一一日判例集五巻一一号二七六頁、福井地昭和三〇年七月二八日判決・例集六巻七号一八七頁)それによつて、申立人らが填補されない著るしい損害を蒙るとは予想できないから、申立人らの主張は理由がない。

第五執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。

なお、本件事業は昭和四三年三月末に工事完了予定であつたが諸々の事情により、その工事完了予定は昭和四六年三月末とされたが、本件事業区域にあつては建物等の移転は全体の八二パーセント以上完了しており、本件処分の執行が停止されるときは、他に及ぼす影響は極めて大であり、各所に混乱をきたし、事業の完成が益々遅延することとなり事業目的の達成が困難となつて公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。

以上、要するに申立人らの本件執行停止の申立は許されるべきでないから、すみやかに却下の裁判を求める次第である。

疎明方法<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例